最近土地探しで、契約前の土地を見ての相談が重なり、気づいたことがあります。土地を探す前にすべき検討はしたつもりでも、幾つか抜けてるような気がしました。探す地域、土地の広さと相場、駅からの距離、学校や商店、道路の状況、等々当然な事項は検討済のようですが、仲介者が触れなくても、土地探しをするなら事前に理解しておくべきことがあります。その辺の、私なら思う隠れている常識のようなものを十か条にまとめてみました。
第1条 求める土地のエリア、立地環境、好み等個別条件の5W1Hは明快にしておく
土地探しは現実的作業のため、自分は何のために、どんな土地と建築を望んでいるのか。それにどれ程の犠牲を払えるのか。基本的な整理をして探さないと、決められない、永遠の青い鳥探し、となり、協力者達も戸惑います。求める土地の条件を末尾に用意しましたので、整理の参考にして下さい。
第2条 土地は総予算から税込み工事費と諸費用を引いた残り額で探すべき
手持ち金やローンに限界がある場合、先に土地を決めると必ず建築費が不足し、納得いく家にはなりません。建築費から消費税、設計料、家具備品、登記等の諸費用を差し引くと実質工事費は7割程度です。土地を決めてから残りの無理な予算で規格型や設計施工にするなどし、建築工事前の全ての検討を行う設計段階を疎かなまま進めても、望んだ家からほど遠いものになります。また、ローンが土地と建物込みの場合、建売用の仕組みのため、新築した建物の登記まで融資が下りない場合があり、建築中の部分払い用に、取り扱い銀行に借り入れをお願いせざるを得なく、それに応じないところもあり、注意が必用です。また、融資によっては、予約から建物完成までの期間に条件が付くことがあり、予算内で工事を請けてくるところを探すのに期間が足りないケースがよくあり、これも注意が必用です。
第3条 建築条件付きの土地は、工事だけでなく、設計や仕様にも条件が付く
建築条件付きは売主である工事者が指定する条件なので、指定以外の工事者に見積もりを取ることはできません。しかも売主は工事で利益を上げようとするため、その工事者が慣れて利益を上げやすい設計や仕様でやろうとし、建て売り的なものになります。建築主の指定する設計や仕様での工事を要望すれば、他所の工事者が施工するより割高になります。自分に合った家を創ろうとするなら、建築条件付きでない土地を探すべきです。
第4条 市街化調整区域や生産緑地でも建築可能な場合もある
例えば、駅から1㎞以内で1㎞の半径内に50戸建物がある等、いくつかの条件を満たせば、市街化調整区域でも建てられる土地が、売りに出ることがあります。調整区域だからと言って即諦めず、検討してみる価値はあります。また自分が開発行為を行って建築できる場合や、2022年以降には生産緑地が解除され、市街地の農地が大量に宅地化される予定もあり、色々な可能性が考えられます。
第5条 造成済みと造成前の土地では、発想の広がりと可能性は造成前にある
造成工事は平均的要望に合わせて行うので、自分の条件に合うとは限らず、むしろその土地での建築の可能性を限定します。しかも開発販売経費と造成工事費が加算され、経済的な大規模団地でもない限り、その分高額になります。造成工事の殆どは建築工事の段階でもできます。もし開発工事前に造成計画の案内があったら、せめてどの土地が自分の望みに近いか、計画段階で判断できれば、より希望に近い土地を得られることになります。
下の写真が、このページトップに掲載した造成前の土地に建てた家です。
分譲区画の中で一番奥にあり、3m程道路より低い土地のため一番安価でした。崖に面した3軒以外の後ろの高価な土地の方は、目の前に家が建つことになり、一階からの眺望は損なわれることになります。
完成した家は一番奥のため、道路奥が駐車場となり、二階入り玄関で、入った目の前が見晴らしの最も良い南向きリビングダイニングです。そこを通って階段を下りて南向きの子供室、寝室となり、浴室の窓の前が市街化調整区域の林のため開放的な窓を取ることができました。最も安価な土地が最も魅力的な要素を有していた土地であった例です。(設計事例「聖蹟桜ヶ丘の家」を参照下さい)
第6条 傾斜や段差或いは隣地が空き地の場合、危険性と可能性を想像する
傾斜や段差のある土地は危険性を考慮した上で、考えうる多様な完成形を想像してその価値を判断する必要があります。例えば崩落の危険性を高基礎や地下室で防ぎ、その上に載せることで、開放性や見晴らし得られる場合もあります。三層建てにする場合も、設計次第で木造の三階建てにも、地下室に載った二階建てのどちらにもできることもあり、それによって仕様と工事費用が違ってきます。高さ規定もどう測定できるかで違ってきます。当然ながら隣が空き地の場合、将来建物がどう建つかも予測して判断すべきです。
第7条 擁壁や崖のある土地は公的安全性の保証と崖地条例を知って検討する
地域の公的機関が安全性を認めた擁壁は、それを前提に建築ができますが、堅固そうでも古い擁壁の場合は殆ど安全性を証明できないものが多く、調べが必要です。そのような土地の場合、擁壁がないものと考えて、各県の崖地条例をもとに、崖の上でも下でも崩落しても大丈夫なように建てる必要があります。
第8条 既存建物付き土地と解体後の更地渡しは、新築なら更地渡しがよい
既存家屋があってそれを売主と買主のどちらが解体するかの判断を迫られた場合、既存家屋をリフォームする可能性がなく、解体撤去費が売主が行う場合と自分が行う場合も同じ程度なら、売主に行ってもらった方がいいです。なぜなら地中に埋設物があった場合、その撤去責任が売主にあることになり、買主の解体となれば買主の責任となるからです。上下水道の引き込み工事も相場価格で、引き込み水道の口径が十分なら売主工事の方が得な場合が多いです。
第9条 工事単価や工事費の概算金額は設計詳細付きでない限り意味がない
土地探しでは建築予算の設定が重要で、色々な人に尋ねても様々で、安い単価を言われると都合良く考えたくなります。でも建築費は土地よりも予想以上に建物の可能性と快適性を左右します。多くの方は建築を工場生産商品のように、どこも内容と単価にさほど差はないだろうと考えがちです。ところが仕様と床面積が同じ図面で、相見積りすると、工事者によって1~3割違うことがよくあります。仕様や床面積が違っている単価や工事費の比較は意味がなく、惑わされるだけです。建築費の予算を十分に確保しておくことに越したことはないです。
第10条 公開物件は潤沢な資金で、掘出し物件は足とプロの知恵とで探す
問題ない造成地の土地は相場価格で公開されます。仲介者は手数料を売り手と買い手双方の分を得ようと、地元の不動産事業者だけで売ろうとし、買い手が付かない場合のみ公開します。情報を早く得るには地元の仲介者と懇意になっておくといいです。予算があれば相場の通常物件を探すだけでいいですが、予算が足りず、安い物件を探す場合、そんな物件には何らかの理由があります。その理由を読み解いて、その訳ありが自分には問題ない場合、或いは自分の建てる建築工事で克服できる場合はお得な物件となります。そのような読み解きや工事費の予測には経験豊富な設計者の知恵を活用した方が賢明です。設計者はあらゆる建築方法の検索エンジンでもあり、共感できる設計者なら、暫定的に設計依頼をして、気に入った土地の多様な可能性を提案をしてもらい、検討しながら、自分に合った土地を決めることができます。