住宅を設計していく中で、プライバシーの確保が日差しと同じぐらい重要な要件になります。そのための手法として「 中庭 」が極めて有効になります。そこでこれまでの設計事例から特徴の際立った中庭のある家の事例を集めて、ギャラリーとして紹介します。
目次
結設計の設計事例の中から、建物形状タイプごとに中庭のある家を紹介します。
1.ロの字型
中庭の周り(四方)を建物で囲んだタイプ。建物を上空から見るとロの字型に見えます。
2.コの字型
三方を建物に囲われていて一方は解放されている中庭
3.L字型
二方を建物に囲われていて二方は解放されている中庭
紹介した中庭のリンク先に設計事例も紹介していますが、ホームページの設計事例にない場合、私共著作の「美しく住まいを整えるデザインのルール85」には掲載せていますのでそちらを参照ください。
1.ロの字型
中庭の周りを建物で囲んだタイプ。上空から見ると建物がロの字型に見えます。
中庭を全方向からしっかり囲むため、外部からの視線が気にならないプライベートな空間になります。
ただし、ロの字型にするには、比較的敷地が広いことが必要です。
「空庭舎」
空中庭園の 中庭のある家。
2階にロの字型の平屋をつくり、その中心に中庭がある事例。1階は貸し駐車場。
2階の住まいに設けた緑豊かな中庭は言わば空中庭園。都心における完全なプライベートな庭園空間を実現しました。
「三ッ沢上町の家」
この家は、敷地が接している南道路より建てる場所が1.5mほど低くなっていて、普通に南側に庭を設けると周りの家から覗かれてしまい、プライバシーの確保が難しくなるため、中庭としました
「坦懐居」
広い中庭は、屋外での食事スペースや子供達の遊び場でもあるテラスも、また小さな菜園もあります。
周囲の近隣からは四方に屋根があるため、全く覗かれません。奥に見える格子壁は自転車置き場で、向こうからこちらは見えませんが、帰ってきた気配は居間から分かります。その隣の木製引き違い戸は車庫に通じていて、中庭の工事や引っ越しの物の出し入れに使用されます。
「五枚屋根の家」
プランは広々とした中庭を中心にしたコの字型ですが、大きく開いた南面のプライバシーを確保するために、中庭より80cmほどレベルを下げた低い屋根の駐車場で通りからの視線を遮りながらも居間からの視界を極力妨げない断面構成としました。
「つくばの家」
3間×3間の四角い中庭を中心に構成された住宅です。
この中庭は、四方に開かれた敷地において完全なプライバシー空間の確保を可能にしています。又、中庭の床と壁を室内と同材で仕上げ、天井を中庭に向かって開くように勾配を設けることで一体感をもたらします。
室内を回遊する日常の中で中庭から差し込む光が時間や四季の移ろいと共に様々な表情をみせ、新たな発見を楽しむ事ができる家です。
「方円汎居」
敷地が道路より半階分下がっていて、周辺のマンションから見下ろされる場所なので、プライバシーを確保できる建物形状として、ロの字型プランで設計しました。
2.コの字型
中庭の3方を建物で囲んだタイプ。上空から見ると建物がコの字に見えます。
中庭に対して3つの面が建物になっているので、外部からの視線をほどよくさえぎります。一部が外に面しているため、適度な開放感も確保できる点が魅力です。
周囲の住宅が密集している敷地の場合は、外に面している部分を壁等で塞いでロの字型のように、外部からの目線が気にならないプライべートな空間にすることも出来ます。
建物と中庭の両方にしっかり光が入るようにできますが、方角や建物の高さなどにも配慮する必要があります。
間口に対して奥に長い敷地などで明るさが取りにくい場合などに向いています。
「鎌倉の家」
敷地は、間口が狭く南北に奥行のある敷地です。その奥行に沿って西側に細い通路が存在しています。その通路と奥行の長さをどう克服し特性に転化できるかが設計のポイントです。
通路に沿ってあった既存の植栽を活かし、コの字状プランの間取りにし、中央部に中庭を設け、そこから各室の光を確保しています。二階西南側を部屋にせず、デッキを設け一階北西の部屋に午後からの陽射しも入れる工夫をしています。居間と食堂が南北に離れている気がしますが、むしろ適度な距離で、なかなか快適そうです。
「真間川の家」
南北に細長い敷地の特性を生かす事、「緑に囲まれた生活」を強く希望されている事を念頭に計画を始めました。
建物のボリュームを南北に分けコの字で囲むように中庭を設け、そこに緑を植えることで個室を除けば室内のどこからでも中庭の緑を眺めるように計画をしました。
2階の居間と食堂は中庭によってスペースを隔てられますが、それによって居間から食堂を見ると中庭の緑が家の中に取り込まれたように見えます。
「三鷹の家」
南北に長く東西方向が狭い敷地なので、車2台分の駐車場を道路よりに確保するとなると、周囲はもちろん、南側にも陽光が差し込むような余裕は取れず、1階の居室には南側からの陽光は期待できません。いわゆる逆転プランの2階居間食堂の総2階建てに近い間取りになります。
おのずと1階への採光は、何とか設けたコの字形の中庭からになります。この4畳弱の中庭がこの家の重要な役割を果たしてくれることになります。中庭の周囲の壁がすべて2階建ての高さになると、小さい中庭からの光が貧弱になるので、中庭東側の2階南東側角には部屋を設けず、簡単な食事もできる屋外デッキスペースとし、手すりも中庭側はフラットバーにするなどし、できるだけ光を取り入れるようにしています。
そうすることで、1階の玄関、廊下、個室、階段、2階食堂、居間への光だけでなく、広がり感や解放感、あるいは緑のもたらす安らぎ感も違ってきます。
「市川の家」
周囲に住宅が建て込んでいる旗竿敷地で、プライバシーを確保しつつ光を採り入れることが設計のポイントになりました。
建物をL字形にすることで、特に明るさの欲しい居間・食堂の南側隣地までの距離を十分とりました。そうして出来たL字のあいた部分をコーナーコートとすることによって、陽光を有効に導きつつ風も通します。2階のデッキを居間から離して南側隣家の影になる部分に設置することでコの字プランになり、1階デッキの上部空間を開放することで、陽光が1階にも届きます。
「文京区の家」
住宅密集地で隣家が迫っている敷地であることから、プライバシー確保を重視し、コの字プランの通常開されている一辺を壁で塞いだ事例。明るさと、通風を確保するための中庭。
「碑文谷の家」
「佐倉の家」
「空環居」
3.L字型
建物をL字型にし、2面の壁に中庭を隣接させたタイプです。
庭を囲んでいる壁が少ないため、開放的な雰囲気にできます。
建物の形状がそれほど特殊ではなく、他の中庭のタイプに比べて最も建物の間取りが自由になります。ただし、中庭の様子が外部から見えやすく、周囲の視線が気になりやすいです。中庭のデザインや配置の仕方によっては、一般的な庭とほとんど変わらない印象になる可能性もあります。
「飯能の家」
「菊名の家」
5.坪庭
光や通風を主目的とした小さめの中庭。
中庭としては広くないですが、明るさと通風を取り入れることができます。また、樹木を植えることなどで、眺める庭にすることもできます。外部からの視線が気にならないよりプライベートな空間になります。
「清浄居」
「深沢の家」
中庭は住まいづくりのコンセプトにもなることがある、計画の有効な手法です。本格的庭園となるとプロの造園設計者に依頼することもありますが(伊豆高原の家、落葉舎、飯能の家、空庭舎)、建築のついでに作る簡易な中庭は、設計段階である程度のことを考えて、私どもから提案することが多いです。
中庭というと、敷地が狭い場合に設けるかのように考えがちです。いま改めて設計事例を見返してみますと、皆、敷地そのものは広く、むしろ庭のプライバシーを確保するために設けていることが多いといえます。
その理由は、庭として成立させるには最低の広さとして3間角(5.4m四方)を必要とし、その周囲に部屋を配するとなると、むしろある程度広い敷地でないと成立しにくいからです。
また敷地が広く、平屋建てが可能な場合、各部屋を連ねていくと、居間食堂用の主になる庭にも、道路や外部空間にも接しない部屋が生じて、法的有効採光や通風が確保できないことがあります。その場合、光と通風確保のために坪庭(清浄居)やコの字型の小さな庭を設ける場合もあります。
三方建物や塀等で囲まれたコの字型の庭は、敷地に十分な庭を設ける余裕がなく、その中で何とか緑や光や通風を確保したくて設ける場合が多いです。この場合、方位によって、陽ざしを取り入れたい部屋が1階にある場合、その対面の部屋は平屋にして陽ざしを遮らないようにしています(鎌倉の家)。敷地が広いのに、コの字型の庭を設けた事例に、庭そのものを計画のメインコンセプトにした「空環居」や「方円汎居」等があります。
建築計画の参考になれば幸いです。