鎌倉の土地探しからの家づくりで 何を支援したか

鎌倉借景の家 コーナー窓
二階居間のコーナー窓からの借景

注文住宅には多様な創られ方があります。メーカー住宅、自由設計という名の建売住宅、パワービルダー、工務店、建築家(専業設計者)、等々多様な作り手がいます。
先日、他物件の引渡しに、建て主さんに、どんな家づくりの仕方があり、どんな特性があり、何をしてくれるのか、最初は殆ど分からない。特に専業設計事務所が分かりにくく、色々あるけど、具体的な違いが分かりにくく、引渡し受けて初めて他との違いが分かった、と言われました。確かに各段階で生じる障害(難所)があり、”しかたがない゛、と諦めることの多い家づくりの中で、諦めるのではなく、活路を探し出そうとするか、あるいは自分に合った選択を見出そうとしないかぎり、理解できないかもしれません。私たちが提供する価値は、その活路の可能性があるかぎり、それを見出そうすることへの支援で、その諦めのなさにあり、それを当然の作業と捉えています。その事例を「難所越えサポート」と称してどんなことか説明してみます。

葉山での土地探し難所(新たな土地情報提供は無理でも土地の可能性と限界を説明します)

自宅を建てる若い夫婦が、土地を探していて、自分らだけでは決めかねるので、一緒に見てくれないかと相談がありました。逗子、葉山、鎌倉あたりで、予算が少ないので多少難があっても安い土地を探したいとのことで、同道しながら目ぼしい候補地の長所と難点、コストパフォーマンス等アドバイスをしながら見て歩きました。その一つが下の写真で、葉山の土地です。

西側道路より敷地を見た写真
北側道路より敷地を見た写真
敷地内から北側道路方向を見通すことのできる

その土地に建てるとして考えられる計画案を二案提示し、満足できるか検討しました。この土地は北と西の二面の道路に接していて、駐車や出入りには有利に働き、その方向への開放性は、北と西と限定的ながら、ありました。問題は、住まいを建てたい場所が敷地の東南の角部分になり、その真南と真東に総二階建てが近接して建っています。そのため一階部分はもちろん、二階部分にも冬の陽ざしは期待でません。建て主も日差しは諦め、北側の道路向こうへの眺望に期待していました。

その他この土地で設計者が気づいたのは、北西隣の隣家の敷地が1m程低くなっていることで、そのためこちらの二階の北西方向の窓からは、隣家の屋根越しの見晴らしが期待できるのではないかということです。二案ともその辺りを考慮して間取りを提示し、検討しましたが、今一つ踏み切れずにいました。

鎌倉の難所だらけの土地(問題と可能性の見極め)

そんな時、鎌倉で、魅力的な土地があるということで見に行ったのが下の写真で最終的に決めた、廃屋の建っている土地です。

建てる前の敷地は道路レベルに1台分の地下車庫があり、そこから2.5m高い地盤に外階段で上り、そこに二階建ての廃屋が建っている土地でした。高い地盤のためか価格も相場よりだいぶ安く、うまく建てられれば眺めの良い住宅ができると思われました。問題は、前面道路が私道で幅4mなく80㎝程セットバックが必要で、その部分に外階段があり、かつ私道が公道より1m弱上り坂になっていて、建物の建つ地盤はさらにそこより2.5m上がっています。鎌倉の地区条例のある風致地区にあり、市の開発課の指導や基準法の構造と高さ規制及び県の崖地条例等が難所となる厳しい土地でした。

右の上り坂が私道、地下車庫と外階段上に廃屋
屋根から雨漏りしている廃屋内部
廃屋二階からの眺め

設計者としては、解体工事や擁壁工事等で予算的にかなり難があり、もっと容易な土地を探したいところです。建て主としては、難については設計者が何とかするだろうということで、場所と価格と眺望からして、掘り出し物の土地なので購入したいとのことです。

計画案確定の難所(土地の課題克服と要望の調整) 

計画的に二台分の駐車場が必要で、そのレベルは道路と同じレベルになり、予算が許せば、二台分の地下車庫と地下玄関及び内部階段を設け、できれば将来用のエレベータースペースを設けて、その上に住居部分を載せる計画にしたいのですが、予算オーバーです。最初に提案したのが、野天の二台駐車場の奥に、地下入り玄関と仕事室を設け、将来用エレベータースペースの収納のある案です。

それに対して建て主はエレベーターが必要になったら転売して引っ越すとのことで、将来用エレベーターも地下の玄関や仕事部屋も地下でなくなりました。

採用案は、地下入り玄関も諦め、屋根無しの駐車場とし、そこから外階段で上った地盤に建てることにしました。そのため、既存の地下車庫を解体し、かつ土を欠き出す必要があります。その残りの土地に建てると、東西に狭く、南北に長い家になり、各室が東向きになります。それは望ましくないので、欠き出した跡の土地が崩れないよう、敷地内に段差を維持する擁壁を南北方向に設けました。その擁壁で住宅の基礎も兼ねることとし、さらに駐車場の上に1m程せり出した基礎にし、東側に広げました。これにより東西に長い家になり、居室すべてが南向きにできました。また、建築費が少なくてすむよう単純な形態の総二階建て風の家としました。

二階リビングは、経験のない方には問題になりがちですが、建て主さんはこの土地の魅力をよく理解していて、今回はすんなり決まりました。また一部玄関と仕事部屋がその段差吸収の擁壁を兼ねた基礎から東にはみ出るので、その下の一部に隣家に崩落の影響を及ぼさない範囲で地下倉庫を設けました。上には二階のリビングと連続する見晴らしの良い、食事もできるルーフデッキとしました。

二階デッキからの南側の眺め

鎌倉価格が存在する地域での工事契約の難所(要望実現にとった手段)

決定された間取りで、要望する仕様内容の実施設計をあげ、工事見積を数社に依頼しました。ウッドショックの直前でもあり、案の定付き合いのある工事屋さんは、千五百万円以上予算オーバーするからと辞退され、近場では予算内で見積もるところがありませんでした。擁壁や外階段等の工事があり、平坦な土地の場合より工事費が膨らむとはいえ、35坪の住宅で通常相場より千万円以上も余計にかかる鎌倉価格で工事契約をさせるわけにはいきません。依頼者が諦めず通常相場での契約を求める限り、私たちの支援のしどころです。施工の可能性のあるエリアを広げ、やってくれそうな工務店をくまなく打診し、探しました。その中に、昔気質で手作りを売りにする大工さん上りの社長が、私共の設計の考え方に興味を示し、協力してもいいと、言ってくれました。敷地から1時間ほど遠い距離の、昔聞いたこともある名前の、長く続けてきた工務店でした。外壁をサイディングにとか、床材の指定等いくつか条件を付けながらも、見積調整にのって請けてくれるとのことでした。現代風の管理体制が整ってなそうで、設計監理での意思疎通は苦労することは承知の上で、何とか許容できる予算内での工事契約という難所を越えました。

外壁サイディングは杉板型枠風の表情のもの選択

解体工事という難所(敷地状況に合う解体工事者探しと直接発注)

当然解体工事費もできるだけ少なくする必要があり、これも数社に見積もりを依頼しました。高い敷地にあり、重機が使えず、手解体になり、既存地下車庫やセットバックする私道内にある鉄筋コンクリート造の外階段が、工事で隣地を崩落させる危険性もあり、予想以上の見積もりでした。本体工事の工務店にも相談し、なんとか費用を抑えて解体してくれるところを探し出し、本体工事に含むと、その経費がかかるので、建て主が直接に工事依頼をすることにしました。

地盤調査で地盤改良必用と診断の難所(地盤に合った調査方法を選択)

地盤は十分地耐力のあるところでしたが、既存建物の解体工事で地盤を荒らしたため、単純な地耐力の調査をすると、二社とも部分的弱点があり不同沈下の恐れがあるという理由で、全体の地盤改良工事が必要、と診断されました。安全性いう御旗を掲げられたら従わざる得ないところです。予算が潤沢ならそのまま行くところですが、地盤改良だけで百万円以上かかるので、再度違った調査方法の機関に相談しました。基礎形状に即した個所と地下レベルの地盤の地耐力を再調査し、擁壁の裏込め工事や弱点箇所だけの部分改良の条件で、地盤保証する機関も紹介いただき、全体の地盤改良工事をなくすことができ、基礎工事に入ることが出来ました。

建築基準法上の難所(建て主の利益保護のための法的論争)

基準法の建蔽率容積率及び北側と道路斜線、さらに壁面後退等が法的許容範囲ぎりぎりで、緩和処置までも活用しているので、設計上の納まりで一部変えると、もぐら叩きのように他の問題として噴出する有様でした。例えば壁と基礎を兼ねると庭の土圧と建物荷重は構造計算上どう配分されるかを明示する必要があります。それは複雑になるので、擁壁と基礎とは縁を切ることで単純化しました。

擁壁と基礎の鉄筋が中央部で切れています

また、駐車場と地下倉庫の開口部が地下レベルにあるので、平均地盤面が上の地盤面より下がります。そのため北側斜線や道路斜線が厳しくなり、通常の屋根の納まりだと、高さ制限を超えるので、北側の桁を下げ、軒の出を出さなくてもよい雨仕舞を考えました。あるいは建蔽率いっぱいの床面積が欲しいところですが、それだと軒の出が1mだけしか出せず、貧弱なデザインになりそうだったので、納戸分の面積を縮小し、その分地下倉庫を設け、南と東の軒の出のみ1.2m出すなど、あの手この手を駆使しました。基準法上の難所越えの設計者の苦労は当然のようにその素振りも見せず、建て主には納得できる計画のための難所越えの軒の出の詳細については、了解していただきました。

行政指導の難所(隣家擁壁に触れる敷地後退で隣家を納得させる説明)

地区条例のある風致地区で、壁面後退が隣地境界から1m、道路境界から1.5m離す必要があります。また前面道路の私道の幅員が4m未満で、不足分の80㎝を道路境界をからセットバックする必要がありました。それだけなら当然のことと受け入れられますが、問題はその部分が写真で分かるように、高い敷地を支える2.5m程の擁壁階段にもなっていて、それを撤去しないと接道する前面道路として認めてもらえず、市の開発課の許可が下りないことでした。建前として理解はできますが、それをすべて撤去すると北側隣家の玉石の擁壁が崩れてきて、トラブルになります。崩れないようにこちらの擁壁一部残してあげたい、というと、開発課がやはり許してくれません。そこでこちらですべて撤去し、完成後に隣家の玉石擁壁を崩れないように修復するということで、隣家の方の了解を頂き、進めることが出来ました。

隣家の塀が倒れない証明という難所(既存地下室以上の耐力証明)

開発課からはさらに既存の地下車庫を撤去しても、南隣家の進入路の塀を兼ねた擁壁が崩れないことの証明を求められました。40年前の隣の塀で、こちらのものでない以上、基礎形状や鉄筋がどうなっているかデータもなく計算も証明もしようがありません。隣の問題ではないかと食い下がっても聞き入れてもらえませんでした。

南隣家所有の擁壁兼ねた塀

このような指導に対して、隣家の塀が倒れてくる力に対し、既存地下車庫が存在した時の土圧以上に、塀に対して直角に設けるこちらの擁壁の耐える力の方が大きくなることを計算し、より安全に働くことを証明し、なんとか許可を得ました。

隣家の塀兼ねた擁壁と倒壊を防ぐこちらの擁壁

基礎工事での難所(複雑な工事内容の確認と発生する問題の丁寧な解決提案)

市の厳しい許可条件と工事見積をなんとかクリアして工事が始まりました。基礎屋さんは工務店が地元の基礎屋さんを探して頼みました。そのためかいくつか行き違いが生じ、難しい基礎形状もあっり、困難を極めましたが、一つ一つ丁寧に解決していきました。

擁壁と高基礎となる地下階の壁の鉄筋と型枠
その後のべた基礎下の断熱材と配筋及び蓄熱ヒーター用配管

上棟以降の難所(初めて付き合う施工者との密なコミュニケーション)

基礎工事が大変苦労しましたが、木工事に入ってからは、担当してくれた大工さんは経験豊富な方でしたが、私たちの納め方に慣れてないので、図面の不備や気になることには確認や提案もしてくれ、処理もうまく助かりました。ただ太陽光発電を、建て主さんが載せたいということで申し込みをしていましたが、しばらく生活し、どんなやり方がいいかゆっくり検討してから決めることになりました。

上棟時の隅木と垂木
仕上がり後の垂木

三者の好意と話し合いで越えた難所(建て主、施工者、設計者の意思疎通も和やかに)

壁面後退緩和措置を目一ぱい活用した二階デッキと社長直々施工の床

追加工事として請求されそうな変更工事も、外注作業でなく、社長の手作業で済む内容ならと割安でしてくれました。外階段は本来基礎屋さんにやっていただくはずでしたが、基礎屋に任せられないと社長自らが指揮を執って型枠大工として施工しました。私たちも現場を再計測し、段形状やポーチ廻りの図面修正で協力しながら、立て直しを図りました。階段の手すり壁の天端も、通常通りの設計でしたが、折角なら、天端に埃がたまり、雨で壁に流され、数年後にコンクリート打ち放しの壁面を汚してしまうので、天端の角にアルミアングルを被せ、雨が壁面を伝わらず落ちるようにしました。見積もりには含んでない処理ですので、設計者が寸法を測って加工した材料を購入し、建て主に接着剤と共に渡して、貼り付け処理をお願いしました。

階段手摺壁角に載せた壁面汚れ対策のアルミアングル

工務店とのデザインセンスの違いは、いくつかありましたが、その都度話し合い、建て主さんも重箱の隅を突っつくようなことはせず、多少のことは許容し、大きな問題にはなりませんでした。工務店の体質が、現代のビルダー風のドライでなくウエットだったせいか、電気工事の職人さんも色々無理を聞いてくれました。給湯設備の納品が全国的にも遅れた時期で、竣工に間に合わない不幸も、その間代替品で凌ぎ、何とか事なきを得て引き渡しとなりました。近々に設計事例として、「鎌倉借景の家」をアップする予定ですので一緒に参照ください。

設計事例に「鎌倉借景の家」として掲載しましたので、そちらも是非ご覧ください。