紫陽花の七変化が始まる季節になってきました。同じ花でも条件が少しでも変わると色合いも変わってしまう自然の不思議です。
先日、他所で提案された「間取り」に不満はないがなんとなく不安だということで、セカンドオピニオンを求められました。確かにその「間取り」は一見部屋数も広さにも明らかな欠陥はなさそうでした。しかしよく見ると、居間食堂を広々と欲しいという割には、家具で仕切った間仕切がせせこましくさせ、廊下を設けた分、全体面積も広くしていました。その分工事費も増やし、窓も道路に近接させ、常にカーテンで隠さないといけなく、風通しも悪そうです。少しは欲しかったという庭を諦め、駐車場の確保がやっとの間取りでした。何より二階屋根の荷重のかかる柱の下の一階には壁も柱もなく、技術的にはできなくないでしょうけど、地上への屋根荷重の伝え方に無理を感じました。
間取りは変えられる
階段の壁を取り払って居間食堂に開放し、子供の帰宅が見えるようにし、廊下の機能を上手に居間食堂に取り込み広く見せ、一階部分の面積を減らし、庭を確保し、そちらに窓を大きく開放し、二階柱を一階の壁のラインに載せる間取りに変えれば、構造的無理なく、居間食堂も視覚的に広くなり、窓も開け放すことができ、面積も減り、工事費も削減する間取りにできると思いました。
間取りの一般的扱われ方に問題が
この「間取り」はさておき、それより気になったのは家づくりの進め方です。この間取りに不満がないなら、建築の内容が殆ど決まったということで、後は屋根や壁の仕上げを決め、他に注文がなければ、そこの工事屋さんのいつもの仕様で工事費を算出し、工事契約に進むとのことでした。その段階の間取りだけでは、壁と窓の位置が決まっただけで、まだ自分の事情に合わせて、暖冷房、給湯、換気、照明等の各種設備機器をどうするか、各種仕上げや仕様グレード、家具や装備、外溝、等々未だ未だ建て主が検討すべきことが多く残っています。それなのに、後は契約後に決めるか、施工者に任せるのだそうです。
間取りが決まれば後はうまくいく?
「間取り」は住宅の良し悪しを大きく左右する重要な要素で、単なる部屋割りではありません。しかもいい家の必要条件ではあっても、十分条件ではありません。世の中では部屋割り程度の「間取り」でも、決まればあとはうまくいくかのように扱われているようです。私達設計者からすると、そこから先の検討行為こそが最も重要な作業で、設計の大半を占める実施設計はその部分の作業になります。しかし一般的にそれは、工事契約後の残務処理的扱いのようです。こんなことは分かっていたとは言え、部屋割り程度の「間取り」を決めた後の検討を十分にはせず、工事契約となる家づくりでは、契約後に不足や変更したいことが続出し、追加変更工事費が追いつかず、後悔する人が後を絶たないのは無理ないことです。このような実態を目の前に見せられると、見た見ぬ振りしていいんだろうかという、微かな危機感を覚えました。
家づくりは
「建築は百人いれば百通りの建築がある」とか、「建築心と盗人心のない奴はいない」あるいは「家は3回建ててみないと思ったような家はできない」などと言われます。かように、建築、特に住宅は色々な有り様が考えられ、また誰もが「間取り」ぐらい、自分でも考えられると思って、作ってみようとしますが、3回建てて見てようやく思い通りの家になる、というようなことなのです。
間取りになぜ迷う
建築を考える時、殆どの方が「間取り」から考えようとします。確かに「間取り」は使い勝手や生活の限界を決定づけます。それで皆さん色々書いてみて、得心いったり、不安に駆られたりします。そして誰もがこれでいいだろうかと迷われます。なぜ迷うのかというと、検討すべきことを全て検討したという確信が持てないからだろうと思われます。
設計者も迷うか
設計者は迷わないかと問われますと、設計者にもよるでしょうが、私らの場合、必要項目の情報収集やヒアリングが十分であればそんなに迷いません。事務所には吟味すべきチェックリストがあり、しかも設計者としての個人的建築観があり、それに照らして吟味すべきことを経験に照らして検討すれば、自ずとできること、無理なことが明らかになり、選択肢は限られ、優劣がつけられます。私どもから「間取り」を提案する場合、一案になるのはそのためです。よく二案か三案の複数を希望される方がいらっしゃいますが、よく考えた提案なら、あり得ない事です。
設計者が迷う場合
設計者が迷う場合は、依頼者の言葉にならない意向や想いを十分汲み取れなかった場合で、依頼者の価値観や嗜好で選択肢の優先度が逆転する場合です。逆転に無理がなく、設計者の価値観からも、それが納得できる場合は、大まかな方向性を確認するため、複数案になることも稀ですがあります。
また複数案ではないですが、設計者が再提案せざるを得ない場合もあります。それは、設計者が依頼者の希望というより、個人的事情や嗜好を十分理解できていなかったときとか、誤解していた場合、提案する「間取り」を間違うことがあります。例えば、現地を見たときが日曜日で道路の往来が少ないと感じて、二階デッキの位置を道路側に設けて提案してみたけど、実は週日は往来が激しく、逆側の方がよかった、などというようなケースです。