会話が気持ちよく転がる時とそうでない時

何気ない会話で話が新鮮な方向に展開していく時と、話が続かない時とがあります。

うまく転がって行く時は話題提示した人の意図や感覚に呼応して、話を深く理解するために問いかけるとか、その話から刺激されて想像したその先の話を返し合う場合です。話し出した人に好意や興味を抱いている場合は自然にそのようになりやすいようです。

逆に話題提示した人の意図や感覚を理解しようとせず、話の是非や言葉尻に囚われ、その是非を吟味するかのような話を返し合うと、話は展開しません。話の腰を折ることになり、せいぜい論争になるのが落ちです。それはそれで話を理解しようとすることですから、大事なことですが、すぐ袋小路に陥って発展的な話にはなりません。

感覚や考えがはっきりした人や年齢がいったような人はすでに自分の感覚が定まっていて、相手の話の先が見えているように思い、話の是非や言葉使いが気になるようです。相手に関心や好意を抱けないと、新たな展開に進む話にはなりにくいようです。何気ない会話なら、話の中身の吟味は自分の何かに影響する段階になってからでも遅くはありません。考えが固まっている人や、話の先に興味を抱けない場合、仮に問いかけたとしても、おざなりな関心から生じていることが見え見えで、話が転がっていかないようです。

また何事に付けても自説を展開したがる人との会話も発展しないものです。こちらからの話題もすぐその人の話にされてしまいます。そのような人と会話を続けるには、じっと聞いてあげて相手の話の展開にこちらの話す糸口が見つかるまで忍耐が必要になります。相手に多少でも好意を持てていないとなかなか耐えられないものです。

設計者の能力の一つに、依頼者を無理なく好きになるということが上げられそうな気がします。それがないと依頼者の話の背景まで理解しようとしないからです。背景の理解なく期待の本質に応えつつ、自分なりの固有の提案はできませんし、理解もしてもらえないからです。そのせいか不特定多数の方に自分を売り込む話はにがてです。誰にも価値ある話は不得手で、あくまで個別の話しなら、状況を深く理解することで、これまで考えた量の多さから適切な推察が可能になります。ホームページ等を見て、好意を持って依頼してくれたと思えるから、その方に好意を覚え、理解し合える会話になれる気がします。

自分の場合、他の能力はいざ知らず、依頼者に好意を覚える能力は他の設計者より高いかもしれません。というのは他の設計者仲間との会話でも8割は聞き役をしてあげていることが多いからです。もっとも話すことに夢中になりがちな設計者仲間との会話が続くのは、好きになる能力というより、忍耐力が殆どのような気もします。