崖下の家
「あきる野の家- 崖下の家 -」は、崖と道路に挟まれた南北に細長い敷地のに建つ、20坪ほどの平屋建ての家です。
単身者のための家で、最初は別荘として使用して、その後移住する予定です。厳しい敷地条件と、施主の要望により他には同じものはないと言える家です。
目次
崖下の家 敷地条件から
敷地は、崖と道路に挟まれた長細い三日月型のような土地です。
西側に崖があり、東側が道路。北側と南側は窄まっていく形。東側道路の先は川まで下っていく傾斜地になっています。
下の写真のように幅の狭い敷地でしたので、工事が始まった時には、「ここに家が建つの!?」と道路を歩いていた多くの方に聞かれたほどでした。
崖と道路に挟まれた限られた部分しか平坦な土地がないのですが、工事費を抑えるにはこの平坦部に建物を建てるしかありません。崖ギリギリまで建物を寄せないと建てられないので、工事の難易度は高くなります。
崖からは距離が取れないため、崖が崩落した場合に備えて土砂が建物内に流入しないようにして、安全性を確保しなくてはなりません。
※がけ地近くの敷地に対する制限等は、その土地がある都道府県の「がけ条例」によります。
崖の下に家を建てるには
仮にこの崖が崩れた場合、そのまま何も考えずに崖下に建てた建物は、土砂に埋まってしまうことになってしまします。
そのため、このがけの崩壊に対して安全であるための対処をしなければなりません。
地盤が強固で崩壊しないことを証明すること(がけの地盤調査・構造計算が必要)という方法もありますが、強固ではない崖の方が多いので、この方法が取れる崖は少ないと思います。
崖下に家を建てる場合、現実的な方法としては下記の3つの方法が考えられます。
1.崖から十分に距離をとる。
(崖の上端から、崖の高さの2倍以上の距離をとる)
2.崖と建物の間に土砂を受け止める土留めをつくる。
3.建物内への土砂の流入を食い止める壁を鉄筋コンクリート造等でつくる。
(土砂の流入を防ぐため、このコンクリートの壁には窓等の開口部は設けられません。)
その他にも、擁壁を設置する方法もありますが、工事費がかなりかかるので、ひとつの住宅を建てるためにそこまでお金を掛けるのは難しいと思います。
崖が崩れたとしても、このコンクリート壁で受け止めて建物の内部に土砂が流入しないようになっています。
あきる野の家 動線・間取り設計
施主の要望が、おひとりでお住まいになるということもあり、あまり一般的ではない要望もありました。特に動線にはこだわりをお持ちでした。
施主の要望
・帰宅時の動線計画
玄関近くにシャワールーム
仕事上屋外で作業することが多いので、帰ってきたらすぐ汗を流せるようにシャワールームを要望。
浴室とは別。
(シャワールームは、汚れを落とすためで、浴室はリラックスするためと使い分けされるとの事でした。)
・洗面脱衣室は、洗濯室・クローゼットと一体もしくは併設。
(シャワーで汗を流したその流れで、着替えをするためのスペースとクローゼットを併設。汚れた衣類を脱いだらすぐ洗濯できるように。)
・玄関からキッチンまでは土間にしたい。
・玄関土間は広くしたい。防犯のため自転車を中に入れたい。
・寝室は、3~4.5帖程度で狭くて良い。
・寝室は、洗面脱衣室に併設。
(浴室からすぐに寝床に入りたい)
・断熱性を高くしたい。
・開口部は小さく少なくて良い。
建て主の要望を生かしつつ、限られた建築可能な面積を最大限利用するにはどうするか検討していきました。
玄関の隣に水回りを集めて配置し、帰ってきたらすぐシャワーと着替えをすぐ取り出せるようにウォークインクローゼットを、着替えをする洗面脱衣室に直結することとしました。
着替えをする洗面脱衣室に、浴室とシャワールームを面するように配置し、脱いだ衣類をそのまま洗濯できるように、洗濯機置場を設定しました。
シャワー室に入ったあと着替えをするため、脱衣洗面室にウォークインクローゼットを接続し、さらにウォークインクローゼットから寝室に出入りできるようにします。
寝室は、結設計で設計する家ではなるべく陽光が入る位置にします。しかし、この家の場合は、一人暮らしで夜帰るか、土日しかいないので、寝室は陽光をあまり考慮する必要はないとのお話しでしたので、コンクリート壁側にしています。
ただ、設計者としては窓が全くないのは、問題があると思いましたので、風通しと明るさを考慮し、崖側のコンクリート壁の上に高窓を設けています。
それらの検討を重ねて出来た玄関から水回りの動線と関係図です。これで動線が決まりました。
この間取りは、一般解ではないと思いますが、この家の施主様にとっては、この間取りしかないと言える間取りになっています。
このように、一般的ではないかもしれないけど、その建主様にとっては必要なこと、理想とすることはあるので、それを生かしつつ合理性も兼ね合わせたものにまとめていくのが設計者だと思って、私どもも一軒一軒設計しています。
冷暖房と断熱について
この10年ほど、結設計で設計した住宅には、基礎のコンクリートに蓄熱させる基礎蓄熱冷暖房を採用することが多いのですが、このあきる野の家の場合は、住まわれる方が単身者で、最初は別荘的な使い方をするということもあり、家に居られない時間が多いので、蓄熱冷暖房は採用しませんでした。
その代わり、断熱性能を上げることで、エアコンでも段冷房の立ち上がりが早くなるようにしています。
断熱材は、断熱性能が高いネオマフォームとし、屋根は80mm、壁は66mm(コンクリート壁部分は40mm)としました。
(基礎断熱は、スタイロフォームを使用しています。)
断熱性能が高い断熱材を厚めにして外断熱にすることと、窓の面積を比較的小さくしさらに樹脂サッシ(トリプルガラス)にすることで、断熱性能が非常に高い家になっています。
引き渡しは、7月の暑い日でしたが、断熱材を厚くし、窓サッシも樹脂サッシにするなど、断熱性を高めたおかげで内部にいるとエアコンを掛けなくてもかなり涼しく感じました。夜間に冷えた空気がそもまま残っていた感じがしました。
断熱性能の重要性を改めて感じさせてくれた家です。
このことは、住まわれる方の生活スタイルなどによって、建物の仕様が変わるという例ですね。
各室紹介
玄関も土砂で塞がれないように、ポーチの崖側に鉄筋コンクリートの壁を設けています。
玄関は土間になっていて、床はモルタル仕上げです。壁はOSBボード。棚や自転車用フックなど生活していって必要になったものを自由につけられるようにという施主様のご要望からOSBボードアラワシ仕上げとしています。
玄関は、自転車を入れるため、土間になっています。
土間の奥はキッチンになっています。そのさらに奥にリビング・書斎があります。
玄関土間から、水回り。左側にシャワー、右側に洗濯機置場と浴室、正面が洗面室。床はタイル敷。
洗面脱衣室の奥からウォークインクローゼット、さらにそこを通って寝室に行けます。
寝室は、3帖強の広さ。畳は縁なし半畳。天井は施主支給の羽目板。
天井は、施主支給の羽目板を張っています。寝室の羽目板とは樹種が違います。
窓サッシは、樹脂サッシでトリプルガラスになっていますので、高い断熱性があります。
突き当りのサッシは、全開口サッシです。樹脂サッシで全開口ができる製品がないので、アルミ樹脂複合サッシです。
東側の窓からは、道路の向こう側の景観が広がります。
施主様からは、もっと窓は小さくて良いと言われましたが、この景観を生かした方が良いと思いますと施主を説得し、もう少し大きめ窓とさせていただきました。
窓上のロールブラインドボックスは、壁体内に設けているので、ボックスが見えません。
風通しと明るさを考慮し、崖側のコンクリート壁の上に高窓を設けています。
板金工事の会社を経営されている方なので、屋根や外壁(金属サイディング)、軒裏の板金工事等は、ご自分の会社で施工されました。
あきる野の家 – 崖下の家 – データ
所在地 :東京都あきる野市
構造 :木造平屋建て
敷地面積 :270.39m2(81.80坪)
建築面積 :71.81m2(21.72坪)
延床面積 :66.45m2(20.10坪)
建蔽率 :26.56%
容積率 :24.58%
設計監理 :結設計 藤原・加藤
施工 :株式会社藤友コーポレーション
(一部 施主施工)
写真撮影 :結設計 加藤・藤原