「馬込の家」は、新たな防火規制のかかる住宅密集地に建つ地下1階、地上2階建ての住宅で、住宅の中に本格的な茶室を設けた事例です。道路と高低差2.5mほどあり、この高低差を生かして、「善福寺の家」のように車庫と玄関を地下に設けました。
家づくりは、マンション住まいから本格的茶室を持つ家を建てたいとの建主からの要望を受け、土地探しから始まりました。数か所候補地を見て歩き、北側に道路がある道路から地盤面が2.5m程高い高低差のある土地に決まりました。ここは、「新たな防火規制」がかかっている土地なので、建物を準耐火建築物にする必要がありました。
間取りは、2階リビング型。2階のリビング・ダイニングは、敷地の東側が駐車場でオープンスペースなのを利用して東南の角にコーナー窓を設け明るく開放的な空間になりました。
地下は高低差を活かし玄関とインナーガレージ(車庫)を設けました。1階はお茶のお稽古が出来る八帖の広間と六帖の寄り付き、水屋・御勝手。と、1階はお茶室の為の階となっています。
馬込の家のデータ
所在地 :東京都大田区
構造 :地下1階 地上木造2階建て
敷地面積 :155.16m2(46.93坪)
建築面積 :59.60m2(18.03坪)
地階床面積:48.23m2(14.59坪)
〔インナーガレージ33.28m2(10.20坪)含む〕
1階床面積:57.61m2(17.43坪)
2階床面積: 51.42m2(15.55坪)
延床面積 :157.26m2(47 .57 坪)
建蔽率 :38.42% 許容建蔽率50%
容積率 :71.46% 許容容積率100% (容積率対象延床面積:110.87m2)
施工 :株式会社ODA建設
設計監理 :結設計 藤原・加藤
写真撮影 :齋部 功
木造部分の外壁はしっくい仕上。地下はコンクリート打ち放し仕上。
建物手前に客用の駐車スペースを1台分確保し、地下入りに玄関と2台分の地下車庫を設けています。
南側に庭を配し、現在は芝生ですが、将来、腰掛待合や路地を設けた茶庭とするためのスペースを用意しています。
建物完成後に、太陽光パネル+蓄電池を設置しました。写真右側に蓄電池が見えます。蓄電池は、容量が大きいタイプため、この住宅で使う1日分は蓄電できています。この蓄電池は、容量が大きいだけにサイズも大きいので、設置場所が難しいです。
上の木造部分が道路側にせり出す形になっていて、玄関前の庇を兼ねています。
郵便受とガス・電気メーターは、木格子の中に設置して隠しています。
茶事のお客様も通ることから、地下の玄関から1階の廊下は畳敷きにしています。
京の茶室の扁額を掲げた玄関で、床上に置かれているお飾りは奈良の東大寺二月堂のお水取りの松明に使用した御下がりだそうです。茶会に来ていただいた方は廊下から階段を上がって1階の茶室に上がります。
廊下脇には、将来地下から二階までのエレベーターが取り付けるためのスペースがあります。エレベーターを設置するまでは、収納として利用しています。

地下の玄関から階段を上がった1階は、茶室として八帖の広間と六帖の寄付が続き間となっています。廊下は在来木造の関東間寸法ですが、広間と寄付は京間寸法になっていて、畳も京間畳なので、関東間よりかなり広く感じます。
広間と寄付には、それぞれ炉が切られています。
「新たな防火規制」区域の為、建物を準耐火建築物にする必要があり、その条件下で通常の住宅程度の予算で本格的茶室を設けるため、素材や技術、仕様や法的にも色々な工夫が施されています。
壁床のある寄り付きです。裏千家ということで寄付きの六帖間には大炉が入りました。
現在は、金属製の炉壇が多くなって(少なくても関東ではほとんど金属製になっているようです)いますが、炉壇師による左官の鏝塗りです。
設計前に京都の師匠さんの茶室を実際細かく見学しながら教えて頂き、現場にも時々監修に来て頂き、写しとまではいきませんが、かなり踏襲させて頂きました。畳、炉壇、襖等、様々京都から取り寄せています。
寄付からは、南側外部に出ることが出来、将来南側2階デッキ下に、躙り口を持った二畳台目の小間を増築できるようにしています。
寄り付きの北側が広間で、間仕切り上の欄間は建主さんがこだわった梅の木をモチーフにしていて、額縁が広かったので左官壁で少し塗り込み、繊細にしています。
炉壇や畳、襖などの製作は、それぞれの京都の職人さんにお願いしました。
広間と寄り付きは炉が切られています。広間に炉、寄付には大炉があります。どちらも土でつくった炉壇で、最近では「本炉壇」といわれるものです。(土製の塗り直しが必要な炉壇のことです。)
馬込の家の炉壇については、ブログ記事の▷「炉壇 炉と大炉」をご覧ください。
広間の曲がりくねった床柱の梅の木も、建主さんが求められて、何とか花釘が打てる形に立てることができました。脇床の落とし掛け材は、東大寺の200年前の古材を頂いたもので、削ったら現在でも樹脂がじんわりと表に出てきました。床柱が梅なので、ぽつぽつと樹脂が表れてくる様子が、梅の花が咲いてきたようにも見えました。
茶を点てる時に使用する風炉先屏風があると、また雰囲気が違ってきます。
広間から廊下に出たところに、茶事に必要となる茶道具や水などを用意するための場所「水屋」があります。
水屋の奥が御勝手(賄いどころ)で、外に魚焼きスペースもあります。主に茶事のお料理の準備に使います。
階段上がって上が住居部分で、リビング・ダイニング・キッチンになっています。
キッチンとテレビの奥が寝室と洗面脱衣室になっています。左側の収納は将来のエレベータースペースです。
東が隣の施設の駐車場なのでコーナー窓にして、視覚的抜けを確保しています。
キッチン側から南側を見た写真で、デッキに出入りするサッシは1間幅の引き込みになっていて、全開口にできます。
全開口サッシの場合は、防火サッシがないので、特注サイズの防火シャッターを取り付けることにしました。
住居部分は全体面積の3割ほどで、奥に寝室と洗面脱衣室・浴室があります。