陸前高田市森林組合事務所

 この建物は、東日本大震災で被災した陸前高田市森林組合事務所の再建のため、新たに建てられた建物です。

この建物では、単純な事務所機能を満たす建物を求められながらも、設計者としては三つの提案を試みてみました。一つは、岩手県では今後益々産出される木材を、大量かつ容易に活用し、非住宅にも対応できる新たな木造軸組構造の提案です。森林組合の事務所の建築であるからこそ、林業の活性化に貢献する建築方法を率先して社会に提案してはと考えてのことです。

東側外部にも内部の構造を露わしています。

建物裏には室外機置き場を兼ねて外収納庫が連続しています。

二つ目は、岩手県では比較的安価で容易に手に入れ易い、合板工場向けの4m丸太から採れる角材を活用した木造建築を提案しています。建築市場では規格品として出回っているのは、3mか⒊.6m丸太です。岩手県では震災で沿岸の合板工場が流されたので、新たに内陸に大きな工場が作られ、その合板工場向けの丸太材も多く出荷できるようになりました。その産業構造の特性を建築へ活用し、少しでも他県との差別化を図る武器にできればと思っての提案です。

4m材は平屋の柱には高過ぎますが、二階建てには足りません。しかし高めの平屋建てとして建て、それに一部ロフトを設けた瞬間、必要機能によっては良い特徴を発揮します。天井を高めにとりたい処とそうでないところをうまく使うことで投資効果が高く、空間にメリハリが出て、効果的なものになります。

ここでは広いスペースを必要とする事務室の天井を高く、ロッカールーム等の機能スペースは低い天井にし、その効果を有効に活用しています。以前の事例の「盛岡の家」も同じです。逆に会議室は桁材を大きくすることでその難点をカバーしました。

事務室の大きな縦窓からは来客駐車場を通して道行く様子と森が見えます。

三つ目は、比較的広い空間の屋根を受ける梁は、スパンを大きく飛ばす必要があり、通常大きな三角トラスか、断面の大きな材とする必要があり、空間を横切る下弦材という水平材が生じます。それを事務室では細い斜材を多く組み合わせて下端材のない軽やかな小枝のようなトラスとし、意匠的にも森の中にいるかのような空間を演出し、照明装置にも活用したデザイン提案をしています。

二階事務室です。2m材の壁に桁を載せて調節しています。水平に細く見えるのは小さく区切る間仕切りレールです。

事務室の照明装置天井です。壁の高さは4m材を活用していますが、そのまま表してはただの大きい空間になりそうでしたので、森の中の小枝をモチーフにしてみました。

会議室の縦窓からは鮭も昇ってくる川が見えます。

半官半民的建物ということで、公共建築と同じように、競争入札にしないといけないということで、建設業の業界紙の岩手県版に案内を掲載し、建築施工者を募集し、その入札の事務手続きも、すべて私どの事務所が取り仕切って行いました。また、いわて木材利用優良施設優秀賞として、釜石の森林組合事務所に続き、岩手県から表彰されました。

撮影:齋部  功